
マンションの施工不良は、めったに起きないから他人事——とは言い切れません。2014年に発覚した横浜市西区のマンション「パークスクエア三ツ沢公園」(住友不動産が2003年に販売)では、建物を支える杭が強固な岩盤まで届いていなかったことが原因で建物の一部が傾き、売主が住民に転居を呼びかける事態になりました。同じ時期には、南青山で三菱地所レジデンスが販売したいわゆる「億ション」でも施工ミスが見つかり、契約解約が行われたと報じられています。
いずれも販売したのは大手企業でした。ブランドや会社の規模だけでは、施工品質は保証されないということです。
とはいえ、買う側にできることが何もないわけではありません。この記事では、こうした事例から得られる教訓を、現行の制度で「どこまで守られるのか」とあわせて整理します。
教訓1:制度で守られる範囲を正確に知る
新築住宅の売主等は、住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法・平成12年4月施行)により、構造耐力上主要な部分と雨水の浸入を防止する部分の瑕疵について、引渡しから10年間の瑕疵担保責任を負っています。
ただし、事業者が倒産してしまえばその責任は果たされません。これが平成17年の構造計算書偽装問題で明らかになった課題でした。そこで「特定住宅瑕疵担保責任の履行の確保等に関する法律(住宅瑕疵担保履行法)」が平成19年に成立し、平成21年(2009年)10月以降に引き渡される新築住宅について、事業者に資力確保措置が義務づけられました。
| 資力確保の方法 | 仕組み | 買主が使える手段 |
|---|---|---|
| 保険(住宅瑕疵担保責任保険) | 国土交通大臣が指定する保険法人と事業者が保険契約を結ぶ。引渡し後10年以内に瑕疵があれば、補修した事業者に保険金が支払われる | 事業者が倒産等で補修できない場合、買主が保険法人へ直接請求できる |
| 供託(住宅瑕疵担保保証金) | 過去10年間に引き渡した新築住宅の戸数に応じた保証金を、あらかじめ法務局などの供託所に預けておく | 事業者が補修できない場合、買主が供託所へ還付を請求できる |
※国土交通省「住宅瑕疵担保履行法および住まいの安心総合支援サイト」および住宅瑕疵担保責任保険協会の公式情報より(当サイトにて確認)。事業者には、新築住宅の建設・販売時に資力確保の措置について買主へ説明する義務もあります。
押さえておきたいのは、この仕組みが守るのは「構造耐力上主要な部分」と「雨水の浸入を防止する部分」に限られるという点です。内装や設備の不具合まで10年間カバーされるわけではありません。また、実際にいくらまで補償されるかは加入している保険の内容によって定められているため、契約時に交付される書面で確認してください。
教訓2:売主・施工会社の「体力」も判断材料に入れる
制度が整ったとはいえ、実際に問題が起きたときの負担は小さくありません。仮住まいの費用、引越し費用、家具の買い替え、住宅ローンに関わる手数料——補償の枠内で収まるかはケースバイケースですし、解決までに相当の時間と手間がかかります。
大企業だから安心だと盲信する必要はありませんが、万が一のときに自社の責任できちんと対応できる体力があるかどうかは、住宅選びの判断材料に入れてよいでしょう。冒頭の事例でも、売主が住民への転居の呼びかけと補償に動けたのは、その体力があったからという側面があります。
教訓3:中古なら「建物状況調査」と「かし保険」を使う
住宅瑕疵担保履行法の資力確保義務は新築住宅が対象です。中古(既存)住宅では別の仕組みを使うことになります。
| 仕組み | 内容 | 買主にとっての意味 |
|---|---|---|
| 建物状況調査(インスペクション) | 既存住宅状況調査技術者が、構造耐力上主要な部分・雨水の浸入を防止する部分の状況を調査する | 買う前に建物の状態を把握できる。瑕疵の有無を判定するものではない点に注意 |
| 既存住宅売買かし保険 | 中古住宅の売買時に加入できる保険。構造耐力上主要な部分等に瑕疵が見つかった場合に修補費用等が支払われる | 建物状況調査で一定の要件を満たせば加入できる |
中古住宅の取引では、平成30年(2018年)4月に施行された宅地建物取引業法の改正により、媒介契約書面への建物状況調査を実施する者のあっせんに関する事項の記載、重要事項説明での調査結果の概要の説明などが位置づけられました。さらに令和6年(2024年)4月1日からは、あっせんを「無」とする場合にその理由を媒介契約書に記載することとされ、調査の限界(瑕疵の有無を判定するものではないこと等)も明記されるよう見直されています。
不動産会社から「建物状況調査はいかがしますか」と聞かれたら、断る前に一度検討する価値があります。調査費用はかかりますが、購入後に構造の問題が判明したときの負担とは比べものになりません。
教訓4:マンションは「管理」が資産価値を左右する
建物そのものと同じくらい重要なのが管理です。管理会社がどのような会社か、管理組合が機能しているか、修繕積立金は計画どおり積み上がっているか——これらは購入後の住み心地だけでなく、将来売却するときの価格にも直結します。
当編集部の担当者も中古マンションを購入した際、販売企業がリーマンショック後の不動産不況ですでに倒産していたという経験があります。それでも購入に踏み切れたのは、価格と住環境に納得できたことに加えて、管理会社が大手で管理状況が良好だったからでした。売主がすでに存在しない中古物件では、なおさら管理の質が判断の軸になります。
内見時には、共用部の清掃状況、掲示板の管理、駐輪場の整理具合といった「日常の管理が行き届いているか」が分かるポイントを見ておきましょう。重要事項調査報告書で修繕積立金の残高と長期修繕計画を確認するのも欠かせません。
購入前チェックリスト
| 確認すること | 見るポイント |
|---|---|
| 資力確保措置(新築) | 保険か供託か。事業者からの説明書面を保管しておく |
| 保証の範囲 | 10年間の対象は構造耐力上主要な部分と雨水の浸入を防止する部分。内装・設備は別の保証期間 |
| 建物状況調査(中古) | 実施の有無、調査結果の概要、既存住宅売買かし保険に加入できるか |
| 売主・施工会社 | 問題が起きたときに対応できる事業基盤があるか |
| 管理会社・管理状況(マンション) | 修繕積立金の残高、長期修繕計画、共用部の管理の行き届き方 |
| 住宅ローンの余裕 | 仮住まい費用など想定外の出費に耐えられる返済計画か |
よくある質問
Q. 引渡しから10年を過ぎた後に構造の問題が見つかったらどうなりますか?
A. 品確法にもとづく10年間の瑕疵担保責任の対象からは外れます。売買契約で定めた契約不適合責任の期間や、事業者独自の保証(アフターサービス基準)が適用できる場合があるため、契約書と保証書を確認してください。判断に迷う場合は、住宅紛争処理支援センターなどの相談窓口を利用できます。
Q. 建物状況調査をすれば欠陥がないと保証されますか?
A. されません。建物状況調査は瑕疵の有無を判定するものではなく、調査時点で確認できる劣化や不具合の状況を調べるものです。この限界は2024年4月の見直しで媒介契約約款にも明記されるようになりました。調査は「安心の証明」ではなく「判断材料の一つ」と捉えてください。
Q. 新築マンションでも建物の傾きは起こり得ますか?
A. 冒頭の事例のように、杭が支持層まで届いていないといった施工上の問題は新築でも起こり得ます。買主が着工前の地盤調査や施工状況をすべて検証するのは現実的ではないため、制度による備え(資力確保措置)と事業者の体力、そして万一の際に耐えられる資金計画で対処するのが現実的です。
Q. 住宅ローンを組むうえで気をつけることはありますか?
A. 借入可能額いっぱいまで借りると、仮住まい費用や想定外の修繕費が発生したときに耐えられません。物件価格だけでなく、購入後に起こり得る出費まで含めて返済計画を立ててください。金利タイプや諸費用は金融機関ごとに差があるため、複数行を横並びで比較したうえで決めるのが確実です。
まとめ
施工不良は買主の努力だけで完全に防げるものではありません。だからこそ、①制度でどこまで守られるかを知る ②売主・施工会社の体力を判断材料に入れる ③中古なら建物状況調査とかし保険を活用する ④マンションは管理の質を見る——この4点を購入前に押さえておくことが、現実的な自衛策になります。
そして忘れられがちなのが、資金面の余裕です。万が一のときに動けるかどうかは、手元資金と毎月の返済負担で決まります。住宅ローンを選ぶ際は、金利の低さだけでなく、保証料・事務手数料・繰上返済手数料まで含めた総額で比較しておきましょう。保証料0円・一部繰上返済手数料0円・一般団信の上乗せ0円といった費用構成が分かりやすいSBI新生銀行のような選択肢も含めて、複数の金融機関を横並びで確認することをおすすめします。
制度の詳細は国土交通省「住宅瑕疵担保履行法および住まいの安心総合支援サイト」で確認できます。個別の契約内容については、売主・仲介会社にお問い合わせください。
