
「住宅ローンの実質マイナス金利」という言葉を聞いたことはありますか? これは、超低金利と住宅取得の優遇制度が重なり、住宅ローンを返済しているのに、控除や給付で受け取る額の方が大きくなる状態を指して使われてきた表現です。まずは仕組みを整理し、そのうえで2026年8月現在はどう変わったのかを確認しましょう。
「実質マイナス金利」とは何だったのか
たとえば変動金利が年0.500%前後という時代には、次のような優遇が重なっていました。
- 住宅ローン控除(住宅ローン減税):年末のローン残高の一定割合が所得税・住民税から戻る
- すまい給付金:一定の年収以下の取得者に現金を給付
ローン金利よりも控除・給付で戻る額の方が大きければ、計算上は「借りているのに手元が増える」状態になり得ます。これが実質マイナス金利と呼ばれたゆえんです。
2026年8月の今は、前提が3つとも崩れている
この「実質マイナス金利」が成り立っていた前提は、いずれも近年変化しました。何がどう変わったのかを1つずつ確認します。
| 前提 | かつて | 2026年8月時点 |
|---|---|---|
| 政策金利 | マイナス金利政策(▲0.1%) | 1.0%程度(無担保コールO/N物の誘導目標) |
| 住宅ローン控除の控除率 | 1.0% | 0.7%(控除期間は新築で原則13年) |
| 現金給付 | すまい給付金(最大50万円) | 終了。省エネ性能に応じた補助へ移行 |
①政策金利は「1.0%程度」に――日銀のマイナス金利政策は2024年3月に解除され、その後も段階的に利上げが進みました。2026年6月16日の金融政策決定会合では、無担保コールレート(オーバーナイト物)の誘導目標が「0.75%程度」から「1.0%程度」へ引き上げられ、2026年8月時点もこの水準が維持されています(出典:日本銀行)。次回の金融政策決定会合は2026年9月17日・18日に予定されており、市場では追加利上げの観測も報じられていますが、日銀が何かを決めたわけではありません。
②控除率は1.0%→0.7%に縮小――2022年の改正で控除率が下がりました。なお適用期限は令和8年度税制改正で5年延長され、入居日が2026年(令和8年)1月1日から2030年(令和12年)12月31日までが対象です。関連する税制改正法は2026年3月31日に成立しており、検討段階の話ではありません(出典:国土交通省)。
③すまい給付金は2022年末で終了――現在は省エネ性能の高い住宅を対象とする「みらいエコ住宅2026事業」(住宅省エネ2026キャンペーン)などに置き換わっています。
つまり、控除率が下がり、給付金が終わり、金利は上昇局面にあるため、かつてのように誰もが「実質マイナス金利」になるわけではありません。1990年代の水準と比べれば変動金利はなお低いものの、「下がり続ける前提」はすでに崩れています。最新の制度・金利を前提に試算することが不可欠です。
金利タイプでどれだけ差が出るか(イオン銀行の例)
金利上昇局面では、変動と固定の金利差そのものが広がります。当編集部が2026年8月4日にイオン銀行の住宅ローンの公式サイトで表示金利を確認したところ、新規借入(物件価格の80%以内・金利プラン)の適用金利は次のとおりでした。

変動が年1.040%なのに対し、当初10年固定は年3.520%です。固定の安心を買うコストは、超低金利期よりはるかに大きくなっていることが分かります。かつて0.500%台の低金利で人気を集めた同行の変動金利も、利上げ局面のなかで水準が切り上がりました。各行とも改定のタイミングと幅は異なるため、「いつ・どの銀行で借りるか」で総返済額が変わります。最新の適用金利は各金融機関の公式サイトでご確認ください。
変動金利を選ぶときの注意点
変動金利型は、つねに金利上昇リスクに注意が必要です。ここ十数年は低水準で安定してきましたが、長いスパンで見ると1990年代には8.5%まで上昇したこともありました。2024年以降は利上げ局面に入っており、「上がらない前提」で組まないことが大切です。
「変動で借りて、上がり始めたら固定へ借り換えればよい」と考える人もいますが、それほど簡単ではありません。住宅ローン金利は、まず長期金利に連動する固定金利が上がり、あとから短期金利に連動する変動金利が上がります。変動金利の上昇に気づいた頃には、固定金利はすでに上がってしまっていることが多いのです。返済額の上限を試算し、金利が上がっても無理のない返済計画を立てておきましょう。
あわせて、金利の上昇がいつ返済額に反映されるかは契約によって違う点も確認しておきたいところです。多くの銀行は返済額の見直しを5年ごとに行う「5年ルール」や、見直し後の返済額を直前の1.25倍までにとどめる「125%ルール」を設けていますが、これらを採用していない銀行もあります。ルールがある場合でも利息そのものが減るわけではなく、負担が後ろ倒しになるだけです。ご自身の契約内容は、返済予定表や各行の商品説明書で必ず確認してください。
いま比較するときに見るべき4つの観点
| 比較の観点 | 見るポイント | 備考 |
|---|---|---|
| 金利 | 変動・固定の適用金利と基準金利改定の動き | 2024年以降は上昇局面。時点を確認 |
| 諸費用 | 事務手数料(定率型は借入額×2.20%(税込)が一般的)・保証料 | 金利が同じでも総額で差が出る |
| 団信 | 一般団信・がん・全疾病などの保障範囲と上乗せ金利 | 上乗せ0円の保障もある |
| 税制・制度 | 住宅ローン控除(控除率0.7%・新築は原則13年) | 2030年12月31日入居分まで。すまい給付金は終了済み |
よくある質問(FAQ)
Q. 2026年8月の時点でも「実質マイナス金利」は成立しますか?
A. 条件は以前よりかなり厳しくなりました。控除率が0.7%に下がっているため、単純に言えば適用金利が年0.700%を下回っていることが最低条件になります。ただし控除されるのは実際に納めた所得税・住民税の範囲までで、限度額いっぱいが戻るわけではありません。事務手数料や保証料も含めた総額で判断してください。
Q. 金利が控除率を下回るなら、繰上返済はしない方が得ですか?
A. 控除期間中は繰上返済で残高を減らすと控除額も減るため、単純な損得だけを見れば「控除期間が終わってから」という考え方はあります。ただし金利上昇局面では、残高を早く減らしておくこと自体がリスクを下げます。手元資金の余裕や家計の安全度も含めて判断してください。
Q. 政策金利が上がると、変動金利もすぐ同じだけ上がりますか?
A. 反映の時期も幅も銀行ごとに異なります。多くの銀行は短期プライムレートを基準にしており、政策金利の変更から反映まで時間差があるほか、優遇幅(引下げ幅)は契約時のものが継続するのが一般的です。「政策金利+◯%」で自動的に決まるわけではない点に注意してください。
Q. これから借りるなら、変動と固定のどちらが得ですか?
A. 一概には言えません。金利上昇に耐えられる家計か、返済期間、繰上返済の予定などで変わります。上の例のように変動と当初10年固定では2%以上の差があるため、「固定にすれば安心」と単純化せず、複数の金利タイプ・銀行を横並びで比較するのがおすすめです。
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