
大雨や洪水でマイホームが浸水した場合、その損害を補償するのは火災保険の「水災補償」です。地震保険でも団信でもありません。しかも水災補償は多くの商品で付けるか外すかを選ぶ扱いのため、契約内容によっては1円も支払われないことがあります。
2015年9月の関東・東北豪雨では鬼怒川の堤防が決壊し、床上浸水や住宅の倒壊など甚大な被害が発生しました。その後も記録的な豪雨や台風による水害は毎年のように起きています。住宅ローンを返済中の比較的新しい住まいも例外ではありません。
ここでは、水災補償の中身と保険料の決まり方、そして万一返済が難しくなったときに使える制度を、順に整理します。
大雨・洪水の損害を補償するのは火災保険の「水災補償」
住宅ローンの団体信用生命保険(団信)や疾病保障がカバーするのは、契約者本人の万一(死亡・高度障害など)です。住宅そのものの損害をカバーするのは火災保険で、両者は守る対象が違います。
注意したいのは、保険の種類によってカバーされる災害が異なることです。地震・噴火・津波による損害は地震保険の領域で、大雨・洪水・内水氾濫・土砂崩れなどによる損害は火災保険の水災補償の領域になります。
地震保険は関心が高く、火災保険契約のうち70.8%が地震保険を付帯しています(2025年度地震保険付帯率・2003年度以降23年連続で増加)。一方で、自分の火災保険に水災補償が付いているかを把握していない人は少なくありません。
| 備えたいリスク | 対応する仕組み | 備考 |
|---|---|---|
| 契約者の死亡・高度障害 | 団体信用生命保険(団信) | 住宅ローンに付帯。疾病保障付きも |
| 火災・風災など | 火災保険 | 補償範囲はプランによる |
| 大雨・洪水・内水氾濫・土砂災害 | 火災保険の水災補償 | プランにより付帯の有無を選択 |
| 地震・噴火・津波 | 地震保険 | 火災保険とセットで加入 |
| 被災してローン返済が困難に | 自然災害債務整理ガイドライン | 減額・免除の可能性(下記参照) |
水災の保険料は市区町村ごとの5区分で決まる
水災補償の保険料には大きな制度変更がありました。損害保険料率算出機構は2023年6月、火災保険の参考純率を改定し、従来は全国一律だった水災の料率を、市区町村別の水災リスクに応じて「1等地〜5等地」の5区分に細分化しました(損害保険料率算出機構 火災保険参考純率)。
これを受けて2024年10月以降、多くの損害保険会社が水災料率を地域別に改定しています。参考純率ベースでは、保険料が最も安い地域と最も高い地域の差は約1.2倍とされています。
自宅や購入予定地が何等地かは、同機構の水災等地検索で調べられます。ただし1等地でも水災リスクがゼロという意味ではありません。相対的に低いという区分にすぎない点は押さえておきましょう。
各社の実際の保険料は参考純率そのものではなく、保険会社が独自に決めます。料率の区分や改定の詳細は台風・水害に備える火災保険|水災料率の5区分と補償の見分け方で詳しく整理しています。
付けるか外すかは「等地」と2種類のハザードマップで判断する
多くの火災保険では、水災補償を付けるか外すかをプランで選べます。判断材料になるのが、上記の等地と、自治体・国が公開するハザードマップです。
ここで見落としやすいのが、洪水(外水氾濫)のハザードマップと、内水氾濫のハザードマップは別物だという点です。市街地で下水道の排水能力を超えて水があふれる内水氾濫は、川から離れた場所でも起こります。洪水マップだけを見て「うちは大丈夫」と判断しないことが大切です。
国土交通省のハザードマップポータルサイトでは、洪水・内水・土砂災害・高潮などを重ねて確認できます。洪水・内水・土砂災害の3つをそれぞれ確認するのが、水災補償の要否を考える出発点です。
| 確認する項目 | どこで調べるか | 判断のポイント |
|---|---|---|
| 水災等地(1〜5等地) | 損害保険料率算出機構の水災等地検索 | 保険料の水準に直結する。1等地でもリスクはゼロではない |
| 洪水(外水氾濫) | ハザードマップポータル・自治体マップ | 河川の氾濫による想定浸水深を確認 |
| 内水氾濫 | 自治体の内水ハザードマップ | 川から離れた市街地でも起こる。未公表の自治体もある |
| 土砂災害 | ハザードマップポータル・都道府県の指定区域 | 警戒区域・特別警戒区域の指定有無を確認 |
なお火災保険は、住宅ローンを借り入れる金融機関経由で案内されることが多く、団体扱いで保険料が割安になる場合があります。例えばドコモSMTBネット銀行(旧・住信SBIネット銀行)のようなネット銀行でも火災保険の案内があります。取扱保険会社やプラン内容は変わることがあります。
被災して返済が困難になったら「自然災害債務整理ガイドライン」
自宅が大きな被害を受け、住宅ローンの返済が困難になった場合に知っておきたいのが「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」です。2015年12月に取りまとめられ、2016年4月から適用が始まった、金融機関側の自主的なルールです。
法的倒産手続によらず、債権者と債務者の合意にもとづいて債務整理を行う準則として位置づけられています。要件を満たせば住宅ローン等の減額や免除を受けられる可能性があります。
特徴は3つです。財産の一部を手元に残せること、この手続による債務整理が個人信用情報として登録されないこと、そして弁護士等の「登録支援専門家」による手続支援を無料で受けられることです。
ただし、対象となる災害や要件はケースごとに判断されます。「被災すれば自動的に返済が猶予される」制度ではありません。返済が難しくなりそうなときは、まず借入先の金融機関に早めに相談し、あわせて全国銀行協会相談室や東日本大震災・自然災害被災者債務整理ガイドライン運営機関に問い合わせてください。
よくある質問
Q. 火災保険に入っていれば、大雨による浸水は自動的に補償されますか?
A. 自動的とは限りません。多くの商品で水災補償は付帯の有無を選ぶ扱いになっているためです。保険証券や契約内容のお知らせで「水災」の記載があるかを確認してください。
Q. 水災等地が「1等地」なら、水災補償は外してよいですか?
A. 一概には言えません。等地は市区町村単位の相対的な区分で、1等地でも水災は起こり得ます。とくに内水氾濫と土砂災害は等地が低い地域でも発生するため、ハザードマップと合わせて判断してください。
Q. 地震で起きた津波や土砂崩れの損害は、水災補償で支払われますか?
A. 地震・噴火・これらによる津波が原因の損害は、火災保険の水災補償では対象外で、地震保険の領域です。同じ「水につかった」被害でも原因によって扱いが変わります。判断に迷う場合は保険会社・代理店に確認してください。
Q. 被災して返済が難しくなったとき、まずどこに相談すればよいですか?
A. 最初の窓口は借入先の金融機関です。返済が滞ってからではなく、難しくなりそうな段階で相談するほど選択肢が残ります。自然災害債務整理ガイドラインの利用可否は、全国銀行協会相談室や運営機関でも相談できます。
住宅ローンの比較と同じ物差しで、火災保険の中身も確認する
マイホームは人生で最も大きな買い物の一つです。金利や諸費用を横並びで比較するのと同じように、火災保険は「水災補償が付いているか」「自宅の等地とハザードマップはどうか」までセットで確認することが、住み続けるための備えになります。
冬場の被害に備える考え方は大雪から家と家族を守る保険|火災・傷害・個人賠償の選び方でも整理しています。
※補償内容・保険料・取扱商品は改定されることがあります。最新の補償内容と取扱状況は、各保険会社・各金融機関の公式サイトでご確認ください。
